こんちわ、イモリです。
日本では普通の夜行列車はサンライズ出雲・瀬戸だけとなり、とくにブルートレインのような機関車が客車を引くスタイルの夜行列車は全廃(カシオペアは一応残ってるともいえるが)されて久しいですが、海外ではまだまだ一般的です。
私自身はサンライズにコロナ前は頻繁に(だいたい大阪→東京だが)乗っていましたが、客車の夜行というと8年半前に急行はまなすで青森から北海道に渡ったのを最後に、今回の一連の旅行までご無沙汰していました。
2023年9月7日、私はトルコのイスタンブールにいました。
次の目的地をモルドバ東部にある未承認国家、沿ドニエストル共和国に決めたので、ひとまず手前のモルドバの首都、キシナウに向かう必要があります。
モルドバはルーマニアの東隣にある国で、国旗がルーマニア国旗ベースなことからも分かるように、主にルーマニア人が住んでいます。一方、旧ソ連構成国の一つでもあるため、技術者などとして移住してきたロシア人も多く住んでいます。(このことが未承認国家の存在に関わってくるのですが次回に)
ちなみにルーマニアはイスタンブールからブルガリアを挟んで北に数百キロの位置にあります。
イスタンブールといえばオリエント急行の影響でヨーロッパの鉄道のスタート地点というイメージだったので、できれば鉄道で行きたいと思い調べてみました。
調べたところ、イスタンブールからルーマニアのブカレスト行きの夜行列車が出ていて、さらにブカレストからは2時間の乗り継ぎでキシナウ行きの夜行列車が出ているではありませんか。完璧です。
トルコ発の国際列車はオンライン予約ができません。(厳密にはブカレスト行きのみルーマニア鉄道のサイトからできなくはないが、ルーマニアの駅で切符を受け取る必要がある)
そのため、切符は駅の窓口で購入する必要があります。
イスタンブールから西に出る列車のターミナルは、オリエント急行の終着点として知られたシルケジ駅から郊外のハルカリ駅に何年か前に移り、今はシルケジ駅からの列車はありません。
でも国際列車の切符は今もシルケジ駅で買えます。多分ハルカリ駅でも買えますが事前に買う場合中心部からかなり遠くて不便です。
シルケジ駅は街の中心部にあり、トラムでもフェリーでもなんでも簡単に行くことができます。おそらくイスタンブールを訪れる人ならほぼ全員シルケジ駅周辺には行くと思います。
駅にはいくつか窓口があり、国際列車の窓口は奥にあります。クレジットカードも使えます。2日後の9月9日発の切符を購入すると、チケットにはなぜか別の列車のはずのIstanbul Sofia Expressと書いてありました。
一応ブカレスト行きにはボスポラス・エクスプレスという名前があるそうですが、ソフィアはこの列車は通らないブルガリアの首都です。なんでだろう。
ちなみに寝台は勝手に2段ベッド×2のタイプになります。それ以外ないので。
2日後の9月9日夕方、マルマライ(近郊電車的なの)で出発駅のハルカリ駅に向かいます。車内でケンカが発生して列車内の男のほとんどが大集結するなど謎のトラブルに見舞われ、予定より30分ほど遅れてハルカリ駅につきました。既に列ができていたので並びます。
しばらくして改札がスタートし、荷物検査を終えたら下の階のホームに出ます。
ここであることに気づきます。ブカレスト行きは先頭の1両だけで、残りの車両は全てソフィア行きの"Istanbul Sofia Express"みたいです。切符の表記の謎が解けました。
部屋は2段ベッドが2つにドアがついて1部屋となっているよくあるタイプです。かつてのトワイライトエクスプレスのB寝台と構造はほぼ同じです(鍵はあります)。同室はオランダ人カップルとパリの地下鉄運転手のおっさん。
この少し前にインドのエアコンなし3段寝台とアルメニアのプラッツカルト(旧ソ連圏の鉄道によくある簡易寝台)で寝たばかりなので個人的にかなり快適に感じましたが、カーテンが無いので気になる人は無理だろうな。
午後8時ちょうどに列車はイスタンブール・ハルカリ駅を出発しました。
小一時間同室の人達と喋ったあと一眠りしていたら、車掌がドアを開けてパスポートコントロールと怒鳴る(?)声に起こされました。
列車で国境を越える場合出入国審査は車内で待っていれば良いことの方が多いのですが、トルコの出入国は一回降りて駅舎で行うようです。時計を見ると午前2時半ですが、仕方なく肌寒いホームに降り立ちます。
地下通路を通って駅舎まで行き、トルコ出国のスタンプを押してもらいます。
列車に戻ると機関車がブルガリアのものに変わっていました。
ベッドに戻ってゴロゴロしていたら、車両を間違えた日本人女性2人組が通路をあれー?とか言いながら徘徊していたので、この車ブカレスト行きやでと教えてあげたら焦って降りていきました。
時間が時間なので爆睡していたらいつのまにか少しだけ列車が進んで、今度はブルガリアの入国審査です。こちらは車内で行うので寝っ転がりながらで大丈夫です。パスポートを回収され、30分ぐらいしてスタンプを押された状態で返されました。
列車での国境越えの場合、微妙な時間を挟んで連続でパスポートコントロールがあるのが辛いです。しかも夜行列車だと2時とか3時にやりがち。
次の日、目を覚ますともう12時でした。
列車はブルガリアの田舎を走っています。いつの間にか最後尾だったはずの自分たちの車両が先頭になって、後ろにおそらくルーマニアの客車が連なっていました。
寝ている間にディミトロフグラード駅でソフィア行きと切り離され、後ろに新しく座席車が連結されたようです。列車は1時間ほど遅れていますが、まだブカレストでの乗り継ぎには問題ないでしょう。
午後3時過ぎ、ブルガリアとルーマニアの国境に到着しました。ブルガリアの出国は入国時同様パスポートを回収されてしばらくしたらスタンプを押された状態で返されます。
次にルーマニアの入国です。パスポートの回収はされずに、部屋で質疑応答してその場でスタンプを押されました。一番楽でありがたいタイプです。
ちなみにブルガリアとルーマニアの国境審査は近い将来両国がシェンゲン協定に加盟して無くなるはずです。ただ、2022年にEUでギリギリ否決されたため、両国はまだシェンゲン協定に加盟していません。(その時はクロアチアだけ承認された)
追記 2024年春頃に両国がシェンゲン協定に加盟することが決まりました。両国間の国境審査は原則廃止されることになり、この列車の所要時間も2時間ほど短くなると思われます。
ここで問題が発生します。ダイヤ上ではルーマニアの国境駅での停車時間は20分だけですが、当然そんな短時間で全乗客の入国審査が終わるわけがありません。遅延がどんどん拡大していきます。
思ったよりは早い35分ほどの停車で出発しましたが1時間半以上遅れており、モルドバ行きの国際列車への乗り継ぎが危ぶまれてきました。
所定の乗り継ぎ時間は2時間12分なので余裕がないとはいえ間に合うのではと思われるかもしれませんが、ネット予約したモルドバ行き列車の切符の受け取りが発車の30分前までなので、かなりまずいです。切符の受け取り期限は18時50分。つまり最大でも1時間40分遅れまでしか許されません。間に合うか。
システム的には発車直前やなんなら発車後でも受け取れる気がしないでもないが、
"Tickets can be picked up from the railway station no later than 30 minutes before the beginning of the trip."
と赤文字で書いてあり、もし30分前を過ぎて発券を拒否されても文句は言えないでしょう。(実際にはとりあえずゴネるだろうけれど)
機関車はルーマニアの青い機関車にかなりの衝撃とともにつけ変わりました。
実を言うとこの時既に当日中の乗り継ぎを諦めていましたが(ここまでの表定速度からすると間に合う訳がないから)、ルーマニアに入ると線路状態がブルガリアより格段に上がったためかなりのスピード(最大120km/hぐらい出てそう)になり、希望が見え始めました。そこからはかなり遅れを回復し、次のVidele駅に着く頃には1時間15分遅れほどになっていました。
ルーマニアの車窓にトルコの三日月マーク。とても良い
いくらか安堵していましたが、ブカレスト北駅直前まで来たところで他の路線との合流地点の赤信号で長時間停止。結局、間に合う可能性の少しでもある最大の遅れである1時間40分ちょうどの遅れでブカレスト北駅に入線しました。期限まであと2分、1秒の猶予もありません。
ホームに入線すると同時に一番先頭のドアを手で開けてステップに立ち、列車が停止するより早く小走り程度のスピードになった瞬間ホームに飛び降りて全力で国際列車のチケットカウンターに走ります。インドですらやらなかった走行中の列車からの飛び降りをまさかルーマニアでやるとは。
受け取り期限1分前、窓口に到着するとそこには長蛇の列が(1窓しかないのかよ)。万事休すか。
他にどうしようもないので列の先頭に"deadline's coming in 30 seconds"と叫びながら割り込みます。ちなみに in a minuteと言わなかったのは定型的な表現になってガチで1分しかないとはまさか受け取られないから。幸運にも理解あるアメリカ人カップルが列の先頭だったため快く順番を譲っていただき、奇跡的に期限10秒前ぐらいにチケットの引き換えが完了しました。いやもうなんというか奇跡だ。
偏見かもですが現地の人が先頭だったらこの場合譲ってくれない人が多い気がします。ルールには厳しそうな堅い国民性を感じますし、ルーマニアでは意外と英語通じないです。実際2番目から後ろに並んでいた現地の方たちの視線がすごーーーーーく厳しかったです。事情がわからなければアジア人の割り込みなんてただ不快でしょうからね(細かい理由は敢えて言わないが)。この幸運を噛み締めて、しっかり列の人たちみんなに謝意を表しながらその場を去りました。
ホームに戻って自分が乗ってきた列車の写真を撮ります。
初めてこの列車の全体像を見ましたが、客車は思っていたより短かった3両編成で、1両目が自分の乗っていたトルコ国鉄の寝台車、2両目がルーマニア鉄道の座席車、3両目がブルガリア国鉄の客車と、客車の国籍が全て違います。やばい、面白すぎる。
長くなり過ぎたのでここで一旦区切ります。
次回はブカレストからモルドバの首都キシナウに向かう国際列車です。